フェンウェイパークの奇跡 | 第2話
夢の中……
レッドソックスがワールドシリーズを完全制覇して、3日後のAM2:00
レッドソックス・オーナー宅 寝室の柱時計が二つ鐘を打った
その瞬間 バチバチバチと電気の弾ける音がしてテレビがついた
オーナーは飛び起きた <なっ、なんだっ、どうしてテレビが…>
オーナーは、寝ぼけ眼でテレビを消そうとベッドから降りた
するとテレビから大歓声が聞こえだす、
ヤンキースの古めかしいユニホームを着た左バッターが 打席で外野スタンドを指差した
大観衆の歓声と罵声が 一段と大きくなりフェンウェイパークに響き渡る
<ベッ…… ベーブ・ルース!>オーナーは驚いて画面に釘付けになった。
「これは予告ホームランを意味しているのでしょうか ?」
と大歓声に混じって実況担当が大声を張り上げた。
オーナーは、ふとテレビのコンセントに眼をやり、呆然と立ちつくした。
<でっ 電源が入っていない……> 大歓声の中、ホームランを打ったルースが、走りだした
一塁・二塁・そして三塁を回りホームベースを踏んだ、
ルースは何を思ったのか、蜂の巣を突いた様な大騒ぎのダグアウトに帰らず、
テレビカメラに向かって走って来た。
しかめっ面をしたルースはカメラを覗きこむようにして、何かを口走った、そして映像は消えた。
<…… 一体どう云う事なんだ ……>
レッドソックスがワールドシリーズを完全制覇して 一週間がたった
オーナーとGM、そして球団社長は、今もなお、何かが くすぶり続けていて、
未だにワールドシリーズの勝利を手放しで喜べていなかった。
レッドソックスがワールドシリーズ完全制覇をして、10日後のpm8:00
オーナーはバックネット裏のオーナー観戦室で、浮かない顔をしてグランドを眺めていた。
「本当に世界一になったのだろうか。世界一になるということは、こんな気分なのだろうか?」
とオーナーは、机の上の赤いコーヒーカップに手を伸ばし、コーヒーを一口飲んだ、
<冷たい…秘書にコーヒーを頼んで一時間以上経っていたのか… >と又暗い表情になった。
一方、球団社長もGMもオフィスでオーナーと同じような気分に悩まされていた。
< 何かしっくりいかないなぁー でも俺達は世界一になったんだ >
と自分に言い聞かせてはいるものの……
三人共々、別々の部屋にいるものの、考えていることは一つ、
<ひょっとして……バンビーノの呪いは…まだ生きているのでは…… >
オーナーは球団社長とGMに電話で「今夜、少し いいかい」
と沈んだ声で八兵衛の屋台に誘った。
二人は気晴らしにはいいか、と思い二つ返事でOKを云った。
オーナーは二人に「それじゃー10時に」といって受話器を置いた。
<10時まであと2時間、さぁー仕事を片付けよう >と三人は仕事に取りかかった
午後10時少し前、ホームで試合がある時には深夜まで人で賑わうFWP周辺
その喧騒からほんの少し離れた場所に屋台「八兵衛」があった。
「こんばんは、八兵衛さん」 「いらっしゃい、皆さん、お久しぶりです。」
八兵衛は、暖簾をくぐる三人にいつもの調子でこたえた。
三人は屋台の椅子に腰を下ろし「いつもの 」とオーナーは八兵衛に言う。
いつもの とは<熱燗にオデン> 熱燗とは日本酒を徳利に入れ人肌に暖めたもの
おでんとは昆布と鰹節で取った出汁でアゲ、竹輪,がんも、コンニャク、大根などを
一つの鍋で煮たものを云う。
三人は辛子を使い辛さを楽しみながら お猪口でお互い酒を酌み交わしながら、
ちびりちびりと日本酒を飲むのを楽しみにしている。
「オーナー・球団社長・GM完全優勝おめでとうございます。
本当に良かった。あっしも自分の事のように喜んでおりやす
今夜はあっしの奢りです。思う存分、飲んで、食って楽しんで下さい。」と八兵衛は云った。
八兵衛は、三人のお猪口に忍者島の地酒を注ぎ、皆で「乾杯!」と祝杯をあげた。
四人は一時間ほど、ワールドシリーズ制覇までの道のりを、苦労話などを交え談笑していた。
すると、オーナーは何かを思い出したのか急に深刻な顔をして球団社長・GMを見つめた。
「7日前の午前二時に奇妙な体験をしたんだ、笑わないで聞いてくれるか」と切り出した
球団社長・GMも<午前二時>という時間に何か思い当たる様子。
「柱時計の鐘が二度鳴り、午前二時を告げると急にテレビがついたんだ。
そして古めかしいヤンキースのユニホームを着た男が打席に立っていた」
「オーナーそれは、ベーブ・ルースでは……」と球団社長は云った。
オーナーとGMはびっくりして球団社長を見た。
「そしてスタンドを指差しホームランを予告し…そして打った……」とGMは続けた。
今度はオーナーと球団社長が目を見開いてGMを見た。
<皆、見たんだ…>三人の背中に夜風が吹きつける。
「おかしな事に寝室のテレビには電源が入っていなかったんだ。
でも……あれは、絶対…夢ではなかった。」とオーナーは云う。
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